辞書・事典・データベース

教父関係の参考文献(辞書・事典)一覧(2021年10月27日版) 作成者:砂田恭佑
PDF版(2023年5月29日版):ダウンロード可

※筆者が主催する「教父文献読書会」の参加者、特に教父研究に関心を持つ学部後期〜修士課程の学生が原典講読の予習をする中で困ったときに参照できるような辞書・事典一覧が欲しい、なければ自分で作ってしまえ、といった企図で作成しました。その後各自がテクストを読解する際にも役立つように作ったつもりですので、応用も効くかもしれません。とはいえそれ以外の用途でどのくらい役に立つかは保証できませんが、その点のみ心得ていただければご自由にお使いいただいて構いません。なおPDF版にはインデント等が施してあるためより見やすくなっています。

〇辞書類
※LSJやLewis & Shortなど、データベース(後述)で閲覧可能なもの、OLDなど西洋古典分野で充分知られているもの、Bauerなど新約聖書分野で充分知られているものは除き、説明も省く
◆ギリシア語
G. W. H. Lampe. 1961. A Patristic Greek lexicon. Oxford: Clarendon Press.
◇教父ギリシア語を読む際には必携の辞書。ただし英国が誇るLSJの存在を前提とし、古典作家と教父との用法に差異がなくLSJで事足りる単語は掲載されていないことがある。なお教父ギリシア語は教父ラテン語以上に著者による語彙・措辞の差異が激しいため、誰がどういう著作で用いている語彙なのかをよく確認する必要がある。Epiphanius of Salamisの用例でGregory of Nazianzusの文章を理解しようとしてはいけない。
F. Montanari (ed.). 2015 [original: 2013]. The Brill Dictionary of Ancient Greek. trsl. by Madeleine Goh, Chad Schroeder, et al. Leiden: Brill.
◇Brill社が出版したギリシア語辞書で、希伊辞典の翻訳。割愛しようとも考えたが、6世紀までの用法も拾っているとの触れ込みなのでここにも掲載した。ただし、何度か用いた限りでいえば、教父の用例は擬ディオニュシオス(Ps. Dionysius Areopagita)などが用いる特殊な語彙以外にあまり掲載されていない。レイアウト等はLSJよりも見やすく、語義説明のアップデートもしばしばなされている。
T. Muraoka. 2009. A Greek-English Lexicon of the Septuagint. Louvain, Paris, Walpole, MA: Peeters.
◇村岡崇光氏による、七十人訳ギリシア語聖書から用例を収集した希英辞書。七十人訳聖書における語義は、LSJにはおまけのように掲載され、Lampeにはほとんど掲載されていない一方で、教父テクスト中の七十人訳聖書引用が理解できないとテクストそのものが意味不明に陥ってしまうことがある。Lampeと併せて必携。七十人訳聖書に限らず、特定の語について用法や含意を広く調べる際にも有用。

◆ラテン語
A. Blaise. 1954. Dictionnaire latin-francais des auteurs chrétiens. Tournhout: Brepols.
◇キリスト教著作家(教父)から用法を収集した羅仏辞典。必携。ラテン語におけるLampeのような存在であるが(出版年で言えば逆?)、こちらは特定の辞書を前提としておらず、語彙に漏れがない(たぶん)。ヒエロニュムス訳旧約聖書も用例収集の対象。詳細で用法も広く収集しており、極めて有用。教会ラテン語に関してはLewis & Shortにも多少の用例が記載されているものの、有用さは段違いなので、Lewis & Shortで”In eccl. Lat.”とあった語に関してこちらを参照するといいことがわかるかもしれない。
1900- Thesaurus Linguae Latinae. Leipzig, Stuttgart, B.G. Teubner, München: K.G. Saur ; Berlin, New York: De Gruyter. [https://thesaurus.badw.de/en/tll-digital/tll-open-...]
◇しばしばメディアでも取り上げられる、未だ編纂途中の巨大ラテン語-ラテン語辞書。2世紀まではすべての用例、6世紀までは重要な用例を選出して、という編纂方針であるが、教父ラテン語や公会議議事録などからも多数の用例が収集されている。オープンアクセス化も進んでおり、ラテン語テクストを読解するにあたりラテン語をラテン語で引く面倒を膨大な用例を比較検討したい情熱が上回った際にはぜひとも挑戦したいところ。

◆シリア語
J. Payne Smith. 1999. A compendious Syriac dictionary: founded upon the Thesaurus Syriacus of R. Payne Smith. Eugene, Oregon: Wipf and Stock Publishers.
◇最も手に取りやすいシリア語辞書。父が編纂したシリア語大辞典(すぐ下に記載)をもとに英語で編纂したもの。多くの場合活用形が具体的に並べられているため直観的にわかりやすい。セルトー体。単語順。
R. Payne Smith. 1879-1901. Thesaurus syriacus. 2 vols. Oxonii, e typographeo Clarendoniano.
◇最も大きなシリア語大辞典。シリア語のLSJ。語義説明も含めてラテン語で書かれている。セルトー体。語根順。
Carl Brockelmann. 1928. Lexicon Syriacum. Editio II. aucta et emendata. Halle : M. Niemeyer. [http://www.dukhrana.com/lexicon/Brockelmann/index....]
◇簡潔で使いやすいが、ラテン語で書かれているシリア語辞典。セルトー体。語根順。
Michael Sokoloff. 2009. '''A Syriac lexicon: a translation from the Latin: correction, expansion, and update of C. Brockelmann's "Lexicon Syriacum"'''. Winona Lake, IN: Eisenbrauns, Piscataway, NJ: Gorgias Press.
◇上記Brockelmannの辞書を基にしたと言いつつ、大幅にアップデートがなされている、シリア語-英語辞典。同じく引きやすいシリア語-英語辞典のPayne Smith (1999)と異なり典拠が明示されており、語義説明もより正確な場合があるが、活用形は原則を抽象した形で記されているため、直観的にわかりにくい場合がある。エストランゲロ+ネストリウス式母音。単語順。


〇事典類
Angelo Di Berardino, T.C. Oden, J.C Elowsky, and J Hoover (eds.). 2006-8 [trsl. 2014]. Encyclopedia of ancient Christianity. 2nd ed. 3 vols. transl. by J.T. Papa, E. A. Koenke, E.E. Hewett. Downers Grove, IL: InterVarsity Press,
◇イタリア語による初期キリスト教事典の英訳版。読みやすく、文献一覧が有用だったり、ニッチな項目を専門家が執筆していたりして痒い所に手が届くことが多いが、その反面記述に強い癖がある項目もあり、項目筆者のチェックは必要。それを加味しても有用で、丸ごと英訳されただけのことはある、といった印象。
William Smith, and Henry Wace (eds.). 1877-87. A Dictionary of Christian Biography, Literature, Sects, and Doctrines. 4 vols. London : J. Murray.
◇古い辞書だが、教父に限らずキリスト教にかかわる人名を詳細にピックアップしており、「そもそも何者か」「エウセビウスが多すぎて困る」という状況に陥ったときなどに有用。ただし古いので、情報を鵜吞みにしてはならず、他の事典による裏取りは必須。原典史料の箇所が明示してある場合には最新の注釈付きエディションを見てもよい。
Everett Ferguson, Michael P., McHugh and Frederick W. Norris (eds.). 1997. Encyclopedia of Early Christianity. 2nd ed. New York : Garland Publishing.
◇初期キリスト教に関する事典。Di Berardinoのものより項目ごとの記述が厚い。分野について学び始めの人にとってはこちらの方が有益かも。
ハインリヒ・クラフト. 2002. 『キリスト教教父事典』水垣渉, 泉治典監訳, 教文館.
◇Heinrich Kraft, Texte der Kirchenväter (1966)に付属の教父事典を邦訳したもの。特性上記述が古く、批判的精神にしばしば欠けるが、邦訳で読み通せる事典としては有用。ただし歴史・古典に関する述語の訳にしばしば不安がある(ただしこのことは、教父研究者による翻訳のほとんど大部分に当てはまることでもある。自戒を込めて)。
F. L. Cross & E. A. Livingstone (ed.). 1997. Oxford Dictionary of the Christian Church. 3rd ed. Oxford.
◇古代から現代にいたる教会に関する事項をまとめた事典。大部すぎず手軽で引きやすい。人物面でも、古代の主要な教会人については項目が立てられており、制度や教理に関する項目とは違って参考文献一覧がついているのが有用。
Franz Joseph Dölger, J. H. Waszink, Hans Lietzmann, Theodor Klauser, Ernst Dassmann, Leopold Wenger und Georg Schöllgen (hrsg.). 1950- Reallexikon für Antike und Christentum: Sachwörterbuch zur Auseinandersetzung des Christentums mit der antiken Welt. Stuttgart: Anton Hiersemann.
◇古代世界とキリスト教に関する事典で、未完結だが専門家が執筆しており詳細。2023年2月年現在までで31巻(- Streitgespräch)まで出版されている。本格的に調べる際に。
Joseph Höfer und Karl Rahner (hrsg.). 1957-68. Lexikon für Theologie und Kirche. 14 Bde. Zweite Auflage. Freiburg, Basel, Wien: Verlag Herder.
◇神学・教会に関するドイツ語の事典。ドイツ語を得意とする人にはもちろん、英米系の記述の伝統から離れた記述が読みたいときにも有用。ドイツ語圏らしいといっていいのかわからないが、制度や信条、規定などハード面からの記述が手厚い印象。
Marcel Viller, Charles Baumgartner, André Rayez (eds.). 1932-1995. Dictionnaire de spiritualité: ascétique et mystique, doctrine et histoire. t. 1-17. Paris: G. Beauchesne et ses fils.
◇キリスト教霊性に関するフランス語の事典。項目数は膨大で、人物や教会に関するものも記載されている。思想関係の調べものに有用。さほど用いたことはないが、編集の経緯に鑑みるに、カトリック的なエキュメニカル性を重視した執筆方針が見られるかもしれない。
Jean-Yves Lacoste. 2005. Encyclopedia of Christian theology. New York: Routledge.
◇キリスト教神学に焦点を当てた事典。教父時代の神学についても充分な数の項目が取り上げられている印象。文献一覧が含まれているのも便利。
Charles G. Herbermann et al. (eds.). 1907-1913. The Catholic Encyclopedia, 15 vols. and index. New York: Robert Appleton. [https://www.newadvent.org/cathen/]
◇カトリック事典(旧)。当然教父の伝統も含むため、カトリック的傾向を行間から読み取り批判的に検討できる限り有益。オンラインで参照できるのが便利。特性上西欧中世以降への接続(及びその接続を支えるカトリック的教会史観)が見えやすいのも特長。
1967-89. New Catholic encyclopedia.18 vols. New York: McGraw-Hill.
◇カトリック事典(新)。同上。批判的精神さえ忘れなければ有用な情報・論述を発見できることも少なくない。
Oliver Nicholson. (ed.). 2018. The Oxford Dictionary of Late Antiquity. 2 vols. Oxford: Oxford University Press.
◇教父ではなく古代末期に関する事典。内容はそこまで厚くないが、キリスト教以外の項目も充実していること、最新の文献情報が掴める場合があること、比較的記述が中立なことが特長。教父関係の調べごとをしていると、後期ローマ帝国その他の制度・慣習でつまずくことがあるので、役職名などで引くと基本情報や参考文献が入手できるので、調査のための入り口とすること。
A. P. Kazhdan, Alice-Mary Maffry Talbot, Anthony Cutler, Timothy E. Gregory, Nancy Patterson Ševcěnko. (eds.). 1991. The Oxford dictionary of Byzantium. New York: Oxford University Press.
◇教父ではなくビザンツに関する事典。特に東方教父のうち後期の面々については、ここで歴史的情報を補完できる。
1977-90. Lexikon des Mittelalters. 9 Bde. München & Zürich, Artemis-Verlag.
◇西欧中世事典だが、ビザンツやアラブ世界も網羅しているとのふれこみで、記述も詳細。西方教父、特に後期に関する背景知識のために。
Sebastian P. Brock et al. (eds.). 2011. The Gorgias encyclopedic dictionary of the Syriac heritage. Piscataway. NJ: Gorgias Press, 2011. [https://gedsh.bethmardutho.org/browse.html]
◇通称GEDSH, シリア語圏の伝統に含まれる項目を収集した事典で、シリア・キリスト教や非カルケドン派「教父」について調査するとき有用。e-GEDSHをオンラインで利用可能。

〇データベース
◆ギリシア語・ラテン語
philolog.us
[https://philolog.us/]
◇LSJとLewis & Shortが引ける。検索ボタンを押さなくていいのがラク。引きましょう。
logeion
[https://logeion.uchicago.edu/lexidium]
◇Lewis & Short, LSJ , DMLBS(ブリテン島における中世ラテン語辞典)、Du Cange(中世ラテン語辞典)等が引ける。対応するラテ文字を打つと検索窓にギリシア語が表示され、LSJも引ける。引きましょう
perseus
[http://www.perseus.tufts.edu/hopper/morph?l=sukofa...]
◇LSJとLiddel & Scott, Lewis & Short, Elementary Lewisが引ける。活用した形から原形を示してくれる機能は、初学者のうちはぐっと使うのをこらえて辞書・文法書と格闘すること。時間がない場合、どうしても原形が思い出せない場合に使うとよい(必ずしも正解が出てくるわけではない)。古典作品のデジタル版も収録されている。Philolog.usやPerseus内の辞書の典拠をクリックしたら英訳に飛ばされてしまった場合、枠に表示されている典拠” Liv. 1 48”をそのまま右上の検索窓にコピペしたら原典が出てくるという裏技がある。
◆キリスト教教父関係
PG (Patrologia Graeca)
[https://www.roger-pearse.com/weblog/patrologia-gra...]
◇J. P. Migneによるギリシア語教父叢書。すべて著作権が切れており、何巻に誰の著作が入っているかわかりやすい本ブログページからリンクに飛ぶのがおすすめ。便利なせいで忘れられがちだが、すべて19世紀以前のエディションを再掲したものであり、原本の編者や出版年をチェックしておくだけで差をつけられる場合がある。
PL (Patrologia Latina)
[https://www.roger-pearse.com/weblog/patrologia-lat...]
◇上記シリーズのラテン語版。こちらでは情報が薄いためやや使いにくい。注意点は同じ。
Patristic Text Archive - An open access archive of ancient Christian texts
[https://pta.bbaw.de/pta/]
◇聖書註解者を中心にいくつかの著作のオンライン・エディションが掲載されているが、未だ少数の著者に限られているので、研究領野に関係しない限り使うチャンスは少ないかもしれない。
Corpus Corporum
[http://www.mlat.uzh.ch/MLS/]
◇チューリッヒ大学が手掛けているサイトで、様々なシリーズをブラウザから閲覧できるだけでなく、検索機能もある(左下)。韻文のみ、原形に直して活用形まで含む、という二つのチェックと、著者の年代を限定できる機能を活用すべし。教父に関しては下限を「700」あたりに設定するとよい。
Acta Sanctorum
[http://acta.chadwyck.co.uk.utokyo.idm.oclc.org/all...]
◇Acta SanctorumとPatrologia Latinaの二つの叢書を検索できるサイトだが、語を曲用・活用させることはできず、機関等によるログインが必要となる(上記は東京大学でのログインのためのリンク)。PLのどこかに、特定の文字列が含まれる、というところまでわかっている場合などは便利。
Comprehensive Aramaic Lexicon Project
[https://cal.huc.edu/]
◇シリア語関連のツールがいろいろと揃っているサイト。左上のアラム語碑文風アイコンをクリックして、辞書を引いたりテクストを見たりできる。Text Browse→Syriac選択で送信して、62001以下に出ている“P”がペシッタ訳聖書。ダニエル書は“Stories about Daniel”にベルと竜、スザンナなどとともに一括で載っているので注意。
New Advent
[https://www.newadvent.org/fathers/]
◇ANFシリーズやNPNFシリーズにおける教父著作の英訳を文字起こししたサイト。利便性は高い。もっとも、文献解題については簡潔なうえ古いものなので盲信しないこと。教父著作だけではなく教会規定なども含んでいる。
Early Church Fathers - Additional Texts
[https://www.tertullian.org/fathers/index.htm]
◇上記シリーズに含まれない著作を補遺したサイト。New Adventで発見できなかった著作を探してみる価値あり。
Werke - Bibliothek der Kirchenväter
[https://bkv.unifr.ch/de/works]
◇ドイツ語のBibliothek der Kirchenväter叢書を文字起こししたもの。ドイツ語が読めるなら便利。
Lives of the Saints (Orthodox Church in America)
[https://www.oca.org/saints/lives]
◇アメリカの正教会によるオンライン聖人事典。大前提として、学術的なそれではなく正教の教会伝承における聖人について記述したもの。受容や、現代における崇敬の在り方などを知ることができる。
The Cult of Saints in Late Antiquity (CSLA)
[http://csla.history.ox.ac.uk/]
◇オックスフォード大学、ワルシャワ大学、レディング大学が共同で作ったデータベースらしい。右上右から三番目の”Enter Database”から検索欄に移動。データベース番号やフリーワードでも検索できるし、SAINT「聖人名」、SOURCE「史料(資料)の種類」、ASPRCT OF CULT「崇敬形態」で絞り込むことも可能。

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